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会社設立サポート

 独立・開業するに際して、事業形態(個人事業形態か、法人事業形態か)にするかの選択は重要な課題です。  

 しかし、実際に事業を開始しようとしても、その時何をしなければならないか、どのようにすればよいのかなどわからないことが多いと思います。 新たに独立して会社を設立すべきか、個人事業として行うべきかについては、それぞれメリット、デメリットがあります。

 また、その開業後の事業の進め方や取引状況等によっても変わってくると思いますので、お話を伺いながらご要望にお応えするように対応をさせていただきますので、お気軽にご相談ください。

 なお、法人の登記につきましては提携させていただいている司法書士を紹介させていただきます。

事業形態について

 現在、日本で設立できる会社の種類は、合名会社、合資会社、合同会社、株式会社の4種類があります。

 合名会社の社員および合資会社の一部の社員は、会社が倒産して債務が残れば、返済義務を負います。これを、無限責任と言います。2006年の会社法施行後は、合同会社および株式会社の最低資本金の縛りが撤廃されたため、合名会社、合資会社が設立されることは少ないのが現状です。

 合同会社、株式会社は、会社が倒産しても債務の弁済は出資金の範囲内で行えばいいこととなっています。これを、有限責任と言います。合同会社は、所有と経営が社員で一致しているのに対し、株式会社は所有(株主)と経営(取締役)が分離しているのが大きな違いです。

 まず、合同会社および株式会社の設立費用について、表にまとめると以下の通りです。


合同会社 株式会社
定款認証手数料 認証不要 50,000円
印紙代※1 40,000円 40,000円
登録免許税(最低額)※2
60,000円 150,000円
定款謄本 2,000円 2,000円
合計(最低額) 102,000円 242,000円

※1 印紙代については、電子定款の場合は0円となります。

※2 登録免許税については、最低額以上については資本金の0.7%となります。

 合同会社、株式会社の違いについて、表にまとめると以下の通りです。

合同会社 株式会社
資本金
1円以上
1円以上
出資者の名称
株主
社員
出資者の数
1人以上
1人以上
役員の数
社員(出資者)1人以上
取締役1人以上
(監査役はなくとも可)
役員の任期
任期なし
2年~10年
代表者
代表社員
代表取締役
決算公告
不要
必要
社会的認知度
株式会社より低い
高い
設立費用
102,000円(最低額)
242,000円(最低額)
設立の手続
比較的簡単
若干の手間と費用がかかる
定款認証
なし
あり
株式公開
できない
できる
配当
定款に割合を定める事ができる
出資比率に応じて配当

 合同会社は、所有と経営が一致しているため基本的には出資者の全員一致が原則となります。合同会社は、「役員の任期が無制限」、「決算公告不要」、「設立費用が安価」、「迅速な意思決定が可能」、「利益や権限の配分を自由に設定可能」と言うメリットがありますが、社会的認知度が低く株式公開できないというデメリットがありますので、規模が小さくて手早く会社を設立したい場合に向いた形態です。

 株式会社は、社会的認知度が高いため得意先、仕入先、融資を受ける場合、従業員を雇う場合には有利に働きます。会社の規模を大きくしたい場合や株式を市場に公開することを視野に入れる場合は株式会社を選択することとなります。

 なお、合同会社を株式会社に組織変更することは可能です。

個人事業形態のメリットとデメリット

 個人、法人の違いについて、項目ごとにまとめます。

① 開業・設立の手続

 個人の場合、運営の手間とコストがかからず開業届を税務署に提出するだけで事業を開始できます。届出に関しては、自分で税務署に出向いて行えば全て無料で、資本金も不要ですので、設立費用がかかりません。それに対して、法人の場合、定款作成・定款認証・設立登記など面倒な手続きが多く、その登記のために最低24万円の費用がかかり、法人の銀行口座や代表者印を別途用意する必要があります。また、書類についても、開業にかかるものを年金事務所、税務署、都道府県税事務所、市町村役場に提出しなければなりません。個人と法人を比較すると、圧倒的に法人の方が手続が煩雑で、かつ、設立費用がかかることがわかると思います。

② 事業年度

 事業年度については、個人については確定申告を2/16~3/15に一律行わなければならないことから、自由に変更することは不可能です。法人については、自由に設定することができますので、仕事の繁忙期を避ける、税理士事務所の繁忙期を避けるなどをすることが可能です。

③ 資金調達

 資金調達の方法としては、個人の場合は融資しかないのに対し、法人の場合は銀行融資以外に社債発行、株式発行など多様な手段があります。また、経理のところでも述べますが法人は基本複式簿記による記帳を行いますが、個人は複式簿記による記帳が義務ではありません。融資を受けたい場合は、判断の資料として複式簿記で作成された財務諸表(貸借対照表・損益計算書)を利用することとなります。法人の場合はすぐに財務諸表を提出できますが、個人の場合はそうはいかない場合も多いです。

 また、法人の方が社会的信用度も高いことも相まって、法人の方が融資を受ける場合においても有利であることがわかると思います。

④ 経理・記帳業務

 個人の場合は、収入と経費を把握するような損益計算書を作成すれば基本的に確定申告できます。法人の場合は、例外なく複式簿記による記帳が求められます。そのため、法人の場合、貸借対照表も作成しなければならず自分で決算書を作成するにはかなり専門的な知識を要するため、税理士に依頼する方が多いのが実状です。

 また、法人については申告書のほかに、勘定科目内訳書、法人事業概況書を提出する必要もあることから時間と手間もかかります。そのため、税理士に依頼する場合においては法人にする方がコストがかかります。

⑤ 事務手続

税金についてですが、個人および法人の決算日から申告日および納付日までの日数をまとめると、以下のようになります。

  個人 法人
決算日から申告日までの日数(所得税) 74日(12/31~3/15) 60日
決算日から申告日までの日数(消費税) 90日(12/31~3/31) 60日
決算日から納付日までの日数(所得税) 約110日 60日
決算日から納付日までの日数(消費税) 約115日 60日

 法人の方が、個人に比べスケジュールが厳しくなっていることがわかると思います。

 個人については、確定申告をすれば自動的にそのデータが市町村に回されて住民税の計算がなされ、都道府県税事務所に回されて事業税の計算がなされます。それに対し、法人については、申告書を国税(法人税)について税務署、地方税(法人都道府県民税)については都道府県税事務所、地方税(法人市町村民税)については市町村役場に、それぞれ提出する必要があります。

 社会保険についてですが、個人の場合、国民年金保険料はすべての国民が一律の保険料(1か月16,490円)で、国民健康保険料についても市町村役場で確定申告書をもとに計算されます。よって、社会保険の関係で書類の提出はありません。これに対し、法人については、社会保険Q&Aでも説明しているように、標準報酬月額に保険料率をかけて保険料を計算します。そのため、法人についてはそのもととなる4~6月の報酬月額を算定基礎届により提出する必要がございます。

 そのため、事務手続の面から見ても、法人の方が煩雑であると思います。

⑥ 税率

 個人にかかる所得税の場合は、超過累進税率を採用しています。超過累進税率は、もうけである所得が増えれば増えるほど、より高い税率を課する課税方式のことをいいます。(5~45%の間で所得に応じて変化します。)所得と税率の対応は、以下の通りです。
課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5%
195万円超330万円以下 10% 97,500円
330万円超695万円以下 20% 427,500円
695万円超900万円以下 23% 636,000円
900万円超1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

 法人にかかる法人税は、資本金が1億円以下の中小法人の場合、所得と税率の対応は以下の通りとなります。

課税される所得金額 税率
800万円以下 15%
800万円超 23.9%

 課税される所得金額が500万円から1,000万円の間まで100万円刻みで所得税と法人税と比較すると、以下の表の通りとなります。

課税所得 所得税 法人税
5,000,000円 572,500円 750,000円
6,000,000円 772,500円 900,000円
7,000,000円 974,000円 1,050,000円
8,000,000円 1,204,000円 1,200,000円
9,000,000円 1,434,000円 1,439,000円
10,000,000円 1,764,000円 1,678,000円

 ですから、所得が800万円~900万円を境に、法人の方が有利と言うことがわかると思います。そのため、組織の規模を大きくすることを考えられる場合は、資金調達も多様であり、国税の税負担も軽くなることから法人を選択される方がいいと思います。  

⑦ 給与所得控除

 個人の場合は、収入から経費を引いたもうけがすべて個人に帰属し、事業所得として課税の対象となるため、給料の概念がありません。つまり、個人の場合は自分に給料を支払うことができません。これに対し、法人の場合、個人と法人は別人格であるため、法人から毎月のお金をもらうときは給料となります。給料につきましては、給与所得控除を受けられます。会社員の場合、スーツ、カバン、パソコンなど仕事に必要な物がありますが、それらについて経費にすることが認められていないため、その経費の代わりの役割をするのが、給与所得控除です。給与所得控除は、収入の一定の割合を必要経費として無条件に差し引くことができる制度です。

 以下に、事業のもうけを720万と仮定して、個人と法人の場合を比較して税金および社会保険料を比べてみると、以下の通りとなります。ここで、法人については、個人であればもうけに相当する720万円をすべて役員報酬としており、家族は夫、妻の2人家族と仮定しております。税金の控除は、基礎控除、配偶者控除のみとしており、社会保険料については、個人は健康保険が当事務所の所在地である摂津市の国民健康保険、年金が国民年金、法人は健康保険が協会けんぽ(割合については大阪府の割合を使用)、年金が厚生年金保険に加入したものとして計算した金額です。なお、計算につきましては、平成28年分のものを用いておりますので、ご注意下さい。


個人 法人 有利不利
事業所得 7,200,000円
給料(役員報酬) 7,200,000円
青色申告特別控除 650,000円
給与所得控除 1,920,000円
基礎控除 380,000円 380,000円
配偶者控除 380,000円 380,000円
社会保険料控除 健康保険料※ 890,000円 412,404円
年金保険料※ 195,120円 643,644円
合計 1,085,120円 1,056,048円 法人にした方が29,072円有利
所得税額 524,000円 270,600円 法人にした方が253,400円有利
住民税額 483,100円 359,000円 法人にした方が124,100円有利

 健康保険料、年金保険料については、法人については個人と事業主が半額ずつ負担するため、個人が負担する金額を計算しております。

 表を見ると、給与所得控除192万の適用を受けることができるということで、所得税額、住民税額と合わせて約37万円が法人の方が個人より税金が減少していることがわかると思います。

 社会保険の面から見ても、健康保険料は個人の方が法人より高くなっていますが、受けられる給付についてはさほど変わりはありません。これに対し、年金保険料は国民年金保険料が約19万円で厚生年金保険料が約64万円と3倍以上になっているため保険料負担は上昇しますが、その分厚生年金に加入しておればその分将来もらえる年金額が多くなります。

⑧ 所得の分散

 個人の場合は、白色申告の場合であれば白色専従者控除、青色申告の場合であれば青色事業専従者給与という制度があり、事業のために専ら従事していることや、事前の届出が必要などといろいろと要件があります。

 法人の場合は、業務量に見合った対価を支払うということであれば、専ら従事するなどといった要件や届出は不要ですので、業務に関わっている親族であればすべて給料として払うことに問題はありません。よって、より柔軟に親族に給料を支払うことが可能となります。

 例えば、⑥の家族経営の法人の場合で夫のみが720万の給料を受け取り妻が全く給与を受け取らない場合と夫と妻が給料を360万ずつ受け取る場合の税金について、以下において比較してみます。健康保険、厚生年金保険については、⑥の場合と同じものに加入するものとします。

 Ⅰ.夫のみが給料で720万円受け取る場合


合計
給料(役員報酬) 7,200,000円 0円 7,200,000円
給与所得控除 1,920,000円 0円 1,920,000円
基礎控除 380,000円 0円 380,000円
配偶者控除 380,000円 0円 380,000円
社会
保険料
控除
健康保険料※ 412,404円
0円 412,404円
年金保険料※ 643,644円
0円 643,644円
合計 1,056,048円
0円 1,056,048円
所得税額 270,600円 0円 270,600円
住民税額 359,000円 0円 359,000円

 Ⅱ.夫、妻が給料を360万ずつ受け取る場合


合計
給料(役員報酬) 3,600,000円 3,600,000円 7,200,000円
給与所得控除 1,920,000円 1,260,000円 2,520,000円
基礎控除 380,000円 380,000円 760,000円
配偶者控除 380,000円 0円 0円
社会
保険料
控除
健康保険料※ 412,404円
209,700円 419,400円
年金保険料※ 643,644円
327,276円 654,552円
合計 1,056,048円
536,976円 1,073,952円
所得税額 270,600円 72,600円 145,200円
住民税額 359,000円 150,000円 300,000円

 健康保険料、年金保険料については、⑥と同様に個人が負担する金額を計算しております。

 ケースⅠ、ケースⅡを比較すると、社会保険料の負担こそ2人合計であまり変わりありませんが、給与所得控除が2人合わせて192万から252万に増えることもあり所得税額が約13万円、住民税額が約5万円所得を分散した方が税金が減少していることがわかります。ですから、給料の額が業務量に見合っているということが前提ですが、薄く広く給料を分散することが節税につながることがわかると思います。

⑨ 消費税

 消費税ですが、個人および資本金1,000万円未満の法人については、基本的に開業から2年間は消費税は免税となります。ただし、その間においても、前半6か月間(これを特定期間といいます。)の売上または給与支払額が1,000万円を超える場合は翌年から消費税が課税されます。つまり、1年目は免税でも2年目から課税される場合があるという場合が出てきました。

 消費税の納税という観点だけで考えると、まずは個人事業から始め2年後に資本金1,000万円未満の法人を設立すれば、最大4年間消費税が免税される場合もあります。

⑩ 欠損金の繰越

 個人で青色申告を行う場合は、純損失の繰越控除で3年間赤字を繰り越すことができます。これに対し、法人で青色申告を行う場合は、青色欠損金の繰越控除で赤字を9年間(平成29年4月1日以降開始事業年度については10年)繰り越すことができます。そのため、赤字が出た場合は法人の方が有利となります。

⑪ 交際費

 交際費については、個人については全額経費にできます。これに対し、法人については800万円を超える場合は、その超える金額だけ損金算入することができません。ここでいう損金とは税務上の経費のことをいいます。そのため、個人の方が有利ということになります。

⑫ 退職金

 個人の場合、給料と一緒で自分に退職金を支払うことができません。しかし、小規模企業共済に加入して掛金を積み立てた場合については、事業を廃業したときに一括で共済金をもらう場合については退職金の代わりとなります。これに対し、法人の場合は、個人と法人は別人格ですので退職金を支払うことができ、法人の経費とすることができます。給料に給与所得控除があるように、退職金にも退職所得控除という制度があります。退職所得控除の計算方法は、以下の通りです。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(80万円以下の場合は、80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 退職所得として課税されるのは、退職金から退職所得控除額を引いた金額の1/2ですから、もらう側も低い税負担でお金を受け取ることができます。

⑬ 生命保険料

 個人についても各生命保険料控除を受けることができますが、限度額が低いため、節税効果が低くなります。これに対し、法人が契約者となり、経営者が被保険者、そして法人が保険金受取人という体制で一定種類の生命保険に加入すると、法人が支払った生命保険料の一定割合を法人の経費とすることができます。そのため、法人の方が有利となります。

  個人経営と法人のメリット、デメリットを項目ごとに表にまとめます。

   …比較的有利な点

 表につきましては、中央経済社発行の法人成りの税務と設立手続のすべて 第2版(2015) 平野敦士・㈱マネージメントリファイン・久保田潔・吉井朋子 著から転載させていただき一部項目について加筆いたしました。



個人経営

法人

開業 廃業

開業・設立の手続

登記は不要

手続は自分でもでき、費用もかからない。

登記が必要

手続が煩雑

事業廃止

廃業届を出す

解散の登記や決算、公告等が必要で、費用もかかる


設立費用がかかる。

事業年度

1/1~12/31自由に変えられない

自由

(繁忙期を避けるなど1年を超えない範囲で任意の時期に設定することができる。)

経営

信用力

劣る

株式会社は信用度が大きい

事業の発展性

小さい

大きい

資金調達

㈱日本政策金融公庫等から融資可能であるが、難しい

融資、出資、株式公開による調達が可能で比較的容易

責任リスク

無限責任

株式会社等は有限責任(融資保証、役員責任はあり)

機関設計

不要。自由に経営できる

株式会社では、取締役、監査役等の選任、登記手続が必要

経理・記帳

業務

簡易な処理が可能

複式簿記が義務(複雑な処理)

経費・事務負担

簡易な処理で負担は少ない

維持費用、事務処理等の負担が大きい

税務

節税対策

低い

高い

税率

超過累進税率

比例税率(一定税率が原則)

給与所得控除

なし

利益は、事業所得

あり

役員報酬は、給与所得

欠損金の繰越

3年間の繰越

9年間の繰越可(10年へ改正)

減価償却

強制償却

任意償却

交際費

事業遂行目的であれば、ほぼすべて経費扱い

一部制限、損金算入限度額がある

生命保険

所得控除

一定の要件を満たせば経費算入可

税務調査

頻度低い

個人に比べ頻度高い

労務

社会保険

従業員5名未満の場合、任意加入

強制加入

保険料コストがかかる

求人

募集しにくい

募集しやすい

事業 承継・ 勇退

事業承継

相続時に事業承継

遺産分割など問題あり

生前で事業承継可能

決議のみで社長交代可能

退職金

本人・専従者は必要経費扱い不可

損金算入可能

受け取った退職金に対する税金が優遇されている

生命保険等で節税+退職金作り可能

 

会社設立の流れ

 ここでは、株式会社設立の流れについて説明します。

① 会社の基本事項の決定

 会社を設立する手続をする上において、まず最初に決める内容で定款を作成する前までに決めておく必要があります。決定すべき項目について、以下にまとめます。

Ⅰ.商号の決定

 商号は会社の名称のことをいい、会社全体を印象づける顔となります。基本的には自由に決めることができます。同一住所に同一の商号がある場合は、登記できません。商号を決定する際は、会社法だけでなく、不正競争防止法等にも注意する必要があります。

Ⅱ.事業目的の決定

 事業目的は「何をする会社なのか」を対外的(株主や取引先、金融期間等)に明確にするもので、後述する定款の中にも必ず記載しなければならないものです。

 目的の範囲外の事業は法律上できないため、当面は予定していない事業についても、将来行う予定があればあげておいてよいと思います。

 事業目的は、「公序良俗に反していない」という適法性、「どのような事業を行って利益を生み出すのか」という営利性、「誰が見てもわかる」という明確性を備えたものにしなければなりません。

Ⅲ.本店所在地の決定

 本店は、会社の主たる営業所のことで、会社の本店所在地は会社の住所となります。会社の本店は登記事項であり、1つの会社につき1つの本店を定めなければなりません。

Ⅳ.事業年度の決定

 会社は1年ごとに会計の区切りがあり、それを決算期といいます。決算期から次の決算期までの期間を事業年度といいます。事業年度は、1年を超えることはできません。決定を行うにあたっては、決算期を会社の繁忙期を避ける、消費税の免税期間を長く取る、資金繰りの面から税金を納めやすい時期に設定するといったところから決定すればよいと思います。

Ⅴ.資本金の決定

 資本金は会社の運営をしていく上で当面必要となる資金です。一般的には、初期費用に設立時から3~6か月程度の経費(運転資金)を加えた金額が目安となります。資本金が多ければ会社の資金繰りが楽になります。ただし、資本金を1,000万円以上に設定してしまうことは、自ら消費税の免税を放棄することとなりますので、お薦めできません。

Ⅵ.出資者の決定

 資本金を調達する人である出資者を決めることをいいます。出資者が会社に対して出資をし、その見返りとして会社が出資者に配当(利益還元)をするということになります。誰が出資者になるかによって、次の機関設計をどうすべきかも変わってきます。

Ⅶ.機関設計

 機関とは、「株主総会」「取締役」など、会社の意思決定や運営などを行うもののことです。会社法上、株主総会および取締役は、およそすべての株式会社に必ず設置しなければなりませんが、そのほかの機関の設置については、複数のパターンから選択することができます。こうした複数のパターンから、自社に適した機関の設置パターンを決めることを「機関設計」といいます。

Ⅷ.株式譲渡制限の有無

 株式会社が発行する株式は自由に譲渡できるのが原則です。しかし、中小企業において知らない間に会社と関係のない第三者に株式が譲渡されると会社の経営に支障が出ます。そのようなことを防ぐために、株式の譲渡による取得について、定款に記載することにより制限を設けることができます。これを会社法では、「株式の譲渡制限に関する規定」といい、中小企業の多くが設定しています。

 すべての株式に譲渡制限の規定をつけている株式会社のことを、一般に「譲渡制限会社(非公開会社)」と呼びます。

会社の基本事項を決定すると同時に、以下のものを用意する必要があります。

 (1) 発起人および役員に就任する人の印鑑証明書

 (2) 法人の印鑑(代表者印、角印、銀行印)

② 定款の作成

 定款は、会社の目的や組織、業務などについて基本的なルールを定めたもの、いわば会社の憲法のようなものです。定款は、会社であれば必ず最初に作成しなければなりません。

 定款に記載する事項は、大別すると次の3つの種類があります。

 (1) 記載しておかないと無効になる「絶対的記載事項」

 (2) 決めたら記載しなければならない「相対的記載事項」

 (3) 記載するかどうかは自由である「任意的記載事項」

絶対的記載事項は必ず決めなければいけないもので、漏れがあってはいけません。その他については、発起人の裁量に任せられています。それぞれについて、列挙すると以下の通りとなります。

 (1) 絶対的記載事項

 ▪ 商号(社名)
 ▪ 目的(会社の事業目的)
 ▪ 会社が発行する株式総数(会社が発行できる株式の上限)
 ▪ 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
 ▪ 本店の所在地
 ▪ 発起人(出資者)の氏名および住所

 (2) 相対的記載事項

 ▪ 変態設立事項(現物出資・財産引受など)
 ▪ 株式譲渡制限に関する事項
 ▪ 会社機関の設置に関する事項
 ▪ 取締役の任期に関する事項
 ▪ 株券発行に関する事項 など

 (3) 任意的記載事項

 ▪ 事業年度
 ▪ 定時株主総会の開催時期
 ▪ 株主総会の議長
 ▪ 取締役等の役員の人数 など

③ 定款の認証

 定款を作成したら、その定款が正しく作られたものであることを第三者に証明してもらうために公証役場に出向いて、公証人に定款認証をしてもらいます。定款は認証を受けることで、初めて法的な効力を持つことになります。認証の際には、発起人全員の実印と印鑑証明書を持参します。発起人のうち誰か1人が代表として行く場合は、他の人たちの委任状を持って行く必要があります。

④ 資本金の払込

 定款の認証が終了したら、発起人が1人の場合はその発起人、発起人が複数の場合は、その代表者の個人口座に会社の資本金を払い込みます。払い込んだことを証明するため、資本金の払い込みがあったことの証明書(払込証明書)を金融機関で発行してもらいます。

⑤ 登記申請

 登記を申請する際には、まず登記申請書を作成する必要がありますが、登記申請書以外にも必要な書類があります。必要な書類のリストは以下の通りです。

必要書類 署名捺印 印鑑 備考
登記申請書 代表取締役 会社実印
登録免許税納付用台紙
登記事項を保存したCD-R(記録媒体)
定款 発起人 個人実印
発起人の決定書 発起人 個人実印 ※1
取締役の就任承諾書 取締役 個人実印
代表取締役の就任承諾書 代表取締役 個人実印 ※2
監査役の就任承諾書 監査役 個人実印 ※3
取締役全員の印鑑証明書 ※4
払込証明書 代表取締役 会社実印
印鑑届出書 代表取締役 会社実印・個人実印

※1 定款で本店所在地を番地まで記載しており、さらに官報による公告を選択している場合は不要

※2 取締役が1名の場合は、その者が自動的に代表権を持つため不要

※3 監査役を置く場合のみ

※4 取締役会を置く場合は、代表取締役の印鑑証明書のみでOK

⑥ 銀行口座開設

 登記申請を終了したら、以下の書類を持って銀行口座を開設しに行きます。

 ▪ 法人の登記簿謄本(登記事項証明書)
 ▪ 定款
 ▪ 銀行印
 ▪ 代表取締役の身分証明書(運転免許証など)

 銀行の選び方ですが、つきあいのある金融機関があればその金融機関で法人の口座を開設すればよいと思います。つきあいのある金融機関がなければ、本店所在地の最寄の金融機関を選べばよいと思います。金融機関のことについては、私もいろいろな金融機関と取引がありますので、相談があれば相談に乗りたいと思います。

⑦ 諸官庁への届出

 会社の設立が終了したら、税務関係の届出書類を税務署、都道府県税事務所、市町村役場に、社会保険関係の届出書類を年金事務所に提出する必要があります。それぞれに提出する書類を列挙すると、以下の通りとなります。


 Ⅰ.税務署

 ▪ 法人設立届出書
 ▪ 青色申告の承認申請書
 ▪ 給与支払事務所等の開設届出書
 ▪ 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
 ▪ 棚卸資産の評価方法の届出書(任意)
 ▪ 減価償却資産の償却方法の届出書(任意)


 Ⅱ.都道府県税事務所

 ▪ 法人設立届出書


 Ⅲ.市町村役場

 ▪ 法人設立届出書


 Ⅳ.年金事務所

 ▪ 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
 ▪ 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
 ▪ 健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)


 設立と同時に労働者を雇用する場合は、労働基準監督署に労働保険の届出書類を、公共職業安定所(ハローワーク)に雇用保険の届出書類を提出する必要があります。それぞれに提出する書類を列挙すると、以下の通りとなります。


 Ⅰ.労働基準監督署

 ▪ 労働保険 保険関係成立届
 ▪ 労働保険 概算保険料申告書


 Ⅱ.公共職業安定所(ハローワーク)

 ▪ 雇用保険 適用事業所設置届
 ▪ 雇用保険 被保険者資格取得届